やさしさの精神病理

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高校生のころ、同じ作者の、「豊かさの精神病理」という本を読んだことがあり、内容は覚えていないものの、読みやすかったことを思い出し、連休中に大阪へ行くときに買っていった本。読みやすすぎて、新幹線に乗る待ち時間の間に読み終えてしまった。

この本の主題は、現代の「やさしさ」は、旧来の「やさしさ」とは異なってきている、ということ。

お互いの関係を滑らかにする、という点では変わらないが、昔は、相手の気持ちを察して共感することがやさしさ、だったのに対し、今は、相手の気持ちに立ち入らないのがやさしさである。熱血教師のようなやさしさは、現代では受け入れられない。これらの仮説が、具体的な患者の例を用いて語られていく。

やさしさについての分析よりも、個々の相談事例のほうが興味をひかれ、単純にドキュメンタリーのように読めた。愛した犬が突然死んでしまったために、病気になった子供。塾に通いたいが、親の体面のためにできない女子高生。決して使われないポケベルを夫との絆として、浮気を続ける女性。必要以上に母に干渉しないことで、「愛していないのか」と母から誤解されるアメリカ人女性。などなど。

乱暴にまとめれば、昔は、深く入り込むことが容易だったから、親しい人間関係があった。今は、うかつに入り込むと強い反発を受けてしまうので、深く入り込みずらくなった。その結果、親しい人間関係を築く機会が減り、「希薄な人間関係」になりやすくなった。
となると、考えるべきは、「なぜ、深く入り込まれると反発するのか」ということなんじゃないかと思うのだけど、それについては、あまり本書には書かれていなかったように思う。そういう意味では、事例の紹介にとどまってしまったと言えるのかもしれない。

でも、面白い本です。読んで損はなかった。