留学

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戦後間もない時期のカトリック留学生の工藤、戦国時代のヨーロッパ留学生の荒木トマス、そして、現代の仏文学者の留学生田中。異なる時代の3人の留学生の苦悩。工藤は、ヨーロッパ人の日本に対する無知と周囲の期待、荒木トマスも、自分の意に反する周囲の期待に悩み、最も多くの量が割かれた田中は、ヨーロッパの持つ歴史の流れに押しつぶされる。

フランスへは行ったことないけれど、イギリス、チェコオーストリアでの乏しい経験からでも、石のヨーロッパの「冷たさ」は実感として理解できる。街中を歩いていても、いたるところに歴史を感じるのは確かだ。東洋人がふらっと行ったところで、その文化全てを理解することは難しい。

たとえば、とても勉強家のヨーロッパ人がいたとして、彼は日本の文献は沢山読んでいるだろうし、日本食も食べるし、日本の服も着るだろう。古典にも明るいと思う。日本についての質問をすれば、きっと様々な文献を引用しながらすらすらと答えるだろう。でも、だからといって彼が日本のことを完全に理解したと言えるだろうか?知識は素晴らしい。でも、その言葉が上滑りしていないだろうか?同じ悩みを田中は抱える。東洋人の自分は、自分の言葉として西洋文化を語っているのだろうか、と。彼は、このほかにも大学の出世争いや、パリの日本人コミュニティでの人間関係など、いろいろと悩まされるのだけど、最初の悩みだけは、自分の努力ではどうしようもない。

でも、例えばアメリカだったら、こういう悩みってないんだろうなぁ、と思う。ヨーロッパが石なら、アメリカはプラスチックだからね。合理的だけど重みがない。日本は木。その心は機能美。ちなみに、スペインはヨーロッパでもあまり冷たい印象はなく、すごく開放的で過ごしやすかったです。特に、バルセロナなんて最高だったな〜。たとえるなら、瓦。石と土の中間。