菊と刀

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とても面白かった。さすがに名著と言われるだけのことはある。

第二次世界大戦中に、アメリカが敵国日本を理解するために行った研究成果を、平易な文章で書き直したのが「菊と刀」で、文中で述べられる日本人の暮らしは、戦後生まれで共働きの両親に育てられた自分からすると、異世界のように感じるところはあるものの、いわゆる「恥の文化」や、「自分にふさわしい行いをすること」を第一とする日本人の価値観などは、自分自身にも当てはまるところが多々あり、興味深かった。

さらに驚くべきは、著者であるベネディクトは、一度も日本へ赴くことなく、在米の日本人からの聞き取りと映画と書物のみで、この分析をやってのけたことで、人類学というのはかくも強力な学問なのかと、今更ながら衝撃を受けた。

もっとも印象に残った箇所は、日本の階層構造について述べた以下の部分。

このように日本人はたえず階層制度を顧慮しながら、その世界を秩序づけてゆくのである。過程や、個人間の関係においては、年齢、世代、性別、階級がふさわしい行動を指定する。政治や、宗教や、軍隊や、産業においては、それぞれの領域が周到に階層に分けられていて、上の者も、下の者も、自分たちの特権の範囲を超えると必ず罰せられる。「ふさわしい位置」が保たれている限り日本人は不服を言わずにやってゆく。彼らは安全だと感じる。(p.110)

この階層構造ゆえ、上位の階層の者の価値観がその世界の価値観となっていたために、日本においては絶対的な倫理の基準というものが存在しなかった。このため、常に「周りからどう見られるか」を気にするようになる。これが、いわゆる「恥の文化」で、「罪の文化」との比較として、懺悔は、罪の文化では救いとなるが、恥の文化においては、自分だけが知る罪は罪にはならず、自ら誰かに告白することは何の救いにもならない、というのはとても分かりやすかった。

自分は、当時の日本の実態についての皮膚感覚がないため、どこまでベネディクトの指摘が当たっているかが本当に理解できないのが歯がゆいところだが、欧米人からみた日本人分析の貴重な例として読んで損はない一冊。

っていうか、もう絶版なので図書館で借りるしかないのかなぁ。僕は親の本棚で見つけたのでラッキーだったのだけど。